携帯電話

突然だった。何の予兆も無かった。



電話がかかって来て、当然のように出ようとし、通話ボタンを押して携帯を右耳にあてがった。「もしもし」と当たり前のことを言うと、右耳がやたら気持ちいい。ブルブルしている。一体何事だ。状況が理解できない。携帯を右耳から離し、右手に持った携帯をじっと見つめる。画面は着信を伝えており、携帯がブルブルしている。再度通話ボタンを押す。ブルブルしている。慎重に左手の人差し指で通話ボタンを押す。ブルブルしている。意味が分からない。



通話ボタンとは、その呼称の通り「通話する時に押すボタン」であって、それを押せば着信を知らせるバイブレーションは止み、右耳にあてがえば相手の声が聞こえ、こちらの言葉も伝え、通話が出来るハズである。そんなことはもはや現代人の常識だ。小学生だって知ってる。僕もそう固く信じて生きてきたのだが、今、自分の手の中ではそれらの常識が全く通用しない事態にあった。



しびれを切らしたのか、先方は僕と通話することを諦めたようで、暫くすると電話は切れてしまった。ブルブルしなくなった携帯をじっと見つめる。この時点でかなり嫌な予感がしていたが、とりあえず通話ボタン以外も押してみる。画面にはソニンの待ち受け画像が出たままであり、つまり、無反応である。出鱈目にセンタージョグをグルグル回す。無反応。なんでそれをしたのか、今となってはよく分からないが、バッテリーを取り外し、また付けてみた。何も映らない。



携帯壊れました。



なんてぼんやりしてる暇はない。携帯が動かないということは、通話はおろか、電話帳をみることも出来ず、よって携帯が動かなくなりましたと知人に連絡することも出来なければ、アーティストステージでソニンの異次元コラム(最近またタフな『B』よろしく「HEY! YO! What's up? ソニンです。」とか言ってる。)を読むことも不可能であり、いわば群集の中の孤独、陸の孤島=俺だ。と言う訳で、早急に買わなければならないのだが、最新機種なんてマジ無理。だって、金持ってねぇーし家もせめぇ、周りと同じじゃねぇ親父(Kダブ)。しかし確実に『必要』なわけで、となればクソみたいな値段で投売りされてるやつを買うしかない。で、ネットでいろいろと携帯について検索していたら、以前使っていた携帯が特集されてるページを見つけた。データスコープ。当時としては珍しく単体でEメールが出来るという点と、ノートPCを使っていたのでモデムになるという点で愛用してた。というのは建前で、ただ単にデカイからステッカーを馬鹿みたいに貼れるっていうので使ってた。これがまた携帯なのにフリーズしたり、唐突に「初期化します。」とか画面に出て本気で茫然とさせられることもしばしばあったが、あゝ懐かしいなぁ。これってプログラミングできる機種だったのか。今知ったところでどうしようもない。どうせプログラミングできねぇ。僕が。



で、買ってきた。

上述の通り、金持ってねぇし家もせめぇ周りと同じじゃねぇ親父(Kダブ)なわけであって、携帯のフォルムや使いやすさ、機能等で選択することなど不可能であるから、その店で最も安価なP251isをBUY。番号が変わるのはなんとしても阻止したかったので、新規購入ではなく機種変更で購入したのだけど、値段が1円だった。事務手数料は翌月に通話料と共に請求させるので、今日支払ったのは本当に1円玉一枚だけだった。生まれて初めてした1円の買い物。受け皿にぽつんとおかれる1円玉。1円貰って「ありがとうございます。」という店員。なんだこの罪悪感は。世の中どうなってんだぁ???