逆襲の新垣

確か、と言ってもかなりうろ覚えなのだけど、確か、まだ中澤が司会をしていた頃のハロモニ。でのモノマネ合戦で、新垣はノリノリのテンションでフローラン・ダバディ氏のモノマネを披露し、その時、司会者の中澤にこんなことを言われている。



「新垣さん、つまんない。」



笑かす気バリバリで嬉々としてモノマネをブチかました際、自分の思惑とは対照的に「場が思いっきし引く」という状態に陥ることは、まぁ予想の範囲内の事態であって、かなり辛いことは事実だが、元々おちゃらけてるだけにそれほど心的ダメージを受けることはないと思う。しかし、その際、トドメを指すかように面と向かって「つまんない。」と言われてしまうことがどれだけ恐ろしいことか、その当事者を自分に置き換えて考えてみて欲しい。



まず、その瞬間の当事者は、笑わかしにかかっているのだから、ある種の”やりきった表情”を浮かべているはずである。さぞ、「な?」って感じの、小汚い上にイヤらしい笑顔爆発状態にあると思う。そして、次の瞬間、その笑顔から一瞬にして生気が失せる。表情はそのままなのに、生気だけが失せる。当事者は既に、「人間としてつまらない。」と言われたかのような、若しくは、存在自体を全否定されたかのような、酷い気分になっているはずだ。なにか切欠さえあれば、もう泣きだしてしまうかもしれない。むしろ、泣きたい。しかし、元がおちゃらけから出た事態であり、且つたかだかモノマネで滑っただけであり、挙げ句笑顔爆発なだけに、泣くに泣けない。その当事者に残されている道は、たった一つだ。仕事でぼろぼろに疲れて、いつものように満員電車で揉みくしゃになって帰ってきた50がらみのオヤジが、ふとしたことで学生時代の写真を見つけ、何の気なしで自分の人生を振り返った時と同様、『力なく笑う』ことしか出来ないのである。その状況に自分が!と考えるだけで全てを投げ出してバリ島あたりに逃げたくなるのは、なにも僕だけではないハズだ。この状況を幾つあるのかも定かではない全ての日本語の中からベストだと思われる言葉で表現するなら、『地獄』の二文字に集約される。



その地獄にあったときの新垣がどういう反応だったかは、残念ながら全く記憶にない。やはり、力なく笑っていたのだろう。当時の新垣にとってダバディ氏にモノマネは、TBSのうたばんでも披露するほどに自信のあるネタだった。それを真っ向から全否定された新垣は、これ以上なく打ちのめされたのと同時に、きっとリベンジを誓ったに違いない。頑張りやの新垣のことだ、コロッケのディナーショーは勿論、モノマネバーにも足しげく通いモノマネとは何か?を一から研究したことだろう。とりあえず、たけしのモノマネからはじめたはずだ。



先日のハロー!モーニング。でやった恒例企画モノマネ合戦において、そんな新垣が並み居る強豪(矢口とか)を押しのけて、MVPに輝いた。そのモノマネは往年の貴さんばりの内輪ネタ(モーニング娘。の現場入りの風景のモノマネ)だったが、一人でフリとネタをしたことが評価されたのだった。審判をしたのは、今もっとも勢いのあるモノマネ芸人ホリ。本職から認められ、その晩、新垣は、さぞ上手い酒を飲んだことと思う。妙にグッときた日曜の昼だった。