メッシュ加工

所謂キャップと呼ばれるタイプの帽子を被った男がいた。その男、襟足から覗く頭髪には白いものが数本混じってはいたが、比較的若々しい服装をしているために年齢がよくわからない。見様によっては、30代にも50代にも見えた。もし彼が50代以上のオヤジだとしたら、それは大成功だと言い切れるぐらい、素晴らしくよく出来た若作りの見本たり得る服装だった。



それだけに、その男が被っていたキャップのチョイスだけが、なにかやたらと惜しかった。そのキャップは、運動時や夏季における通気性を確保するために後頭部にあたる部分が網状のメッシュ加工されたやつだったのだが、そのメッシュ部分から透けて見える色が、黒でも白でもなく、どう見ても大々的に肌色だったのだ。強制的に横山ノック氏のヘアースタイルを思い出さざるを得ないほどに、キャップのへりのギリギリいっぱいまで、豪快に透けて見える肌色だった。思わず「あ・・・新しい!!」などとよく分からない感想を抱いてしまったほどに、斬新なまでの肌色だった。そのオヤジの詰めの甘さに、前しか見えない目玉をつけた人間の悲劇を、また、暑さにはどうしても勝てずにメッシュ加工のキャップを選んでしまったであろう様に、対自然における人間の脆弱さを見た気がし、他人事ながら、この夏の異常な暑さを恨んだ。