3年B組金八先生 最終回「25年目の贈る言葉」を観る

僕が持っているもっとも人間らしい感情のひとつである、面倒臭い、に負けてだいぶ放置してしまいましたが、全話録画の上しっかり見てますので、書きます。前代未聞の4時間SP。半年間見続けたファンへの感謝とも嫌がらせとも取れるその長さも、当初に危惧した「観ている自分がグダグダになってギブアップする」という事態にはならず、一気に観せてくれた。冒頭1時間を使い、ダイジェストで今期をざっと振り返ってくれたのもありがたい。武田汁(金八の鼻腔から止め処なく流れ落ちる液体の意。ただの鼻水と片付けるにはあまりに意味が重く、かと言って聖水と呼ぶにはあまりに気持ち悪いので、武田の本気汁を略してそう呼んでいる)の分泌量が過去最大級だった「ドラッグを憎め!ドラッグを憎め!」のシーンが流れるころには、こっちの魂も十二分に持っていかれており、いい感じに暖まった状態で本編を観ることができた。以下、本編の感想。だらだら書いたから長いよ。


本編開始早々から、早速ボムが投下される。職員室で金八の辞表提出(自信喪失による)を知った若手の同僚たちが必死に金八に辞意撤回を求め詰め寄る中、今期の金八では比較的見せ場の無かった北先生が、取り乱す若手を諌めつつ、自身の熱を抑えて口を開いたシーンが第一のボム。北先生は言う。金八の決意は一教師としての決断としては認めるが、あなたは既に一教師ではなく、この地域にとって必要な人であり、今辞めるのは卑怯だ、と。そう、あくまで北先生”らしく”金八の今置かれる状況を説明して辞意の撤回を求めるその声は、次第に怒声となっていき、感情は昂ぶり、最後には涙交じりに「あんたいなくなると寂しいよ!」と心の中にある声を露わにして訴える。そして、それを受けてそれまで俯いていた顔をゆっくりと上げる金八。この中年の男同士の熱い友情物語に、早くも僕の涙腺は決壊した。第4シリーズで金八に対するカウンター的なスタンスと理念を持つ教師として登場した北先生と金八の付き合いも、早10年以上。ぶつかり合いながら理解を深め、お互いを認めあうまでになった二人を象徴するいいシーンだった。このシーンでの北先生こと金田明夫の名演は、ドラマ「王様のレストラン」第一話で「シャンベルタンを持ってこい!」と連呼する嫌な客で魅せた名演と一緒に、僕の心の金田明夫名演集に仕舞っておくことにする。

次のボムは、その直後の3B教室でのシーン。平静を装って金八が教室に入ると、今度は3Bの生徒に辞表の件を問い質される。金八は、今回の件はマラソンで言えばここがゴールだから終わるだけで、けして棄権したわけじゃない、とドラフト直後のパンチ佐藤ばりに心情を説明するが、その曖昧さと後ろ向きな姿勢に生徒は誰も納得しない。何を言っても黙っている金八に、業を煮やした狩野が動いたところで第二のボムが炸裂。「3B生徒が署名を集めてしゅうが卒業式に出れられるようになれば、金八は辞表を破れ!俺たちと勝負しろ!勝負する勇気ねえのか!!」と、ソーラン節の回の時に金八が3Bにつかったテクをそのまま金八にやり返すのは、狩野が金八のやり方を信じているからこそのこと。それでも泣きながら俯くだけの金八の胸倉をつかみ、お前どうしちまったんだよ的な悲しみと怒りと悔しさの入り混じった感情を爆発させる狩野の演技が圧巻の出来だった。怒りと悲しみを涙と怒声だけではなく、そこに泣きながらも微笑む、という演技を盛りこみ、泣き・笑い・怒りのすべてを同時に出すことで、狩野が感情が抑えきれない状態になっていること(=それほどに金八が好き)がひどく伝わってきた。そんなアシュラマン的な演技を完璧にこなした狩野の姿と、ドラマの中の狩野の心理を観て、泣くなと言う方が無理な話だ。そこには世代を超えた男同士の友情物語があった。開始30分でバカでかい山場が続け様に2発。しかも、その間CM一切なし。息つく暇もなければ、トイレに行くことも出来なかった。CMに入ると同時に僕はトイレに駆け込んだ。

その後、ドラマは署名が目標の1000人を超えたり、しゅうの第一回目の審判があったりと、いくつかのライトボムを挟みつつダーっと進んで、卒業式のシーンに。ここからは、もう当然のように絨毯爆撃の様相。まずは金八シリーズでの敷設機雷たる卒業生答辞シーンだが、ここでも狩野が魅せてくれた。ぽつぽつと呟くように振りかえるのは、自分が中学生活で流した相反する意味を持つ2つ涙。ソーラン節で初めてクラスがまとまった時のこと、そしてしゅうが薬の影響で教室で錯乱した時のこと。しかし、伝えたいことがたくさんあるのに、うまく言葉が出てこない。もっと上手く自分の気持ちを伝えられたら、しゅうはあんなことになってなかったかもしれない、とクラスでも人一倍言葉遣いを知らず、また言葉そのものを軽視してきた自分を自戒し、狩野が言う。「先生、言葉って大事だな。やっと分かった気がする。」この言葉を受けて、”あの顔”でやさしく微笑む金八。なんていうか、もうそこに100%LOVEしかねぇの!当然、俺汁の分泌も加速した。ここで金八が辞意撤回を決意したことは後で分かるのだが、この「教えが届いた生徒」と「生徒から教育の醍醐味を思い出させられる金八」という構図は、今期放送当初のコピーで謳っていた「生徒に教え、生徒に学ぶ」を正しく体現したシーンで、当初に設定した物語の着地点を蔑ろにせず、見事に着地した瞬間だった。

卒業式が終わりに差し掛かかり、しゅうが少年院送致となったことが伝えられると、これまた恒例のアトミックボム”金八から生徒一人一人への贈る言葉”のシーンに雪崩れ込む。ほぼ武田鉄矢のアドリブで展開されるこのシーンは、撮影を一番最後にやるという。生徒を演じた役者たちにとっての卒業式だ。ここでドラマ金八先生は、フィクションとドキュメントが交錯し、生徒一人一人の目からは演技ではない涙が流され、そのたびに金八こと武田鉄矢の鼻腔からも光り輝く武田汁が分泌される。その光景が29発連続で発射されるのだからもう、否応無くええいやあである。もらい泣きである。本気で泣いている人の映像が延々写し出される映像のパワーは、どのシーンよりも凄まじかった。また金八が生徒一人一人に贈ったのは、漢字一字の手紙だったのだが、その中に僕の名前の一字も含まれており、その点でも感動した。

最後は、少年院に護送されるしゅうのために3B全員でソーラン節を演じて終了。いつも通りの大団円とはならなず、なにか後味の悪さが残ったが、薬物汚染への警鐘を鳴らすことを優先した姿勢には敬意を表したい。

と、泣きに泣いた自分だが、今期全体としては、途中脚本家の交代があった影響からか、過去シリーズの焼き直しと思える展開が散見されたり、おそらくもっと触れる予定であったであろうスペシャルオリンピックス方面の話がぱったりと無くなってしまったりと、残念なところがなかったわけじゃない。生徒のキャラが立っていただけに一人一人が主役になる話をもっとほしいとも思ったし、金八が無茶苦茶駄目な生徒を真っ向から叱り飛ばすシーンも観たかったしね。ただ、最近、僕の高校時代の友人がMDMAに一度だけ手を出して正気を失い半年間しかるべき施設に収容されていたことと、また別の同窓生が薬物で命を落としていたことを知ったこともあり、薬物問題に対して、金八に「ドラッグを憎め!」という一言を言わせるためだけに半年間費やしてドラマを描いていたとも思えるほど真剣に取り組んだスタッフ及びキャスト陣には、やはり感謝しか出てこない。必ずあるであろう金スペと次回作にも期待しつつ、ここで〆。今期のベストバウトは、文化祭でソーラン節をやった回でした。